あちこたねぇ
Single
shiro
Maxi Single
宮原芽映
Port・fo・lio
MariPosa
2枚ワンセット
   
Copyright © 2007 - 2017 宮原芽映
MIYAHARA Mebae All Rights Reserved.

よわこ yowako.com 宮原芽映 オフィシャルサイト

蝉のハレルヤ ②

よわこの日記 ARCHIVE   Posted on 11 02nd, 2007   Yowako  

よわこ D013
今日も、わたしはよわこです。
夏の終わりの出来事なのに、つづきを書かないうちに11月になってしまいました。…ごめんなさい。
お彼岸の朝、おかしなメールがパソコンにきました。HTML形式で茶色いモザイク模様の縁どりがあって、こう書いてありました。「よわこ様 私は先日あなたに助けていただいた蝉です。お礼にあなたを我々のコンサートにご招待します。『ミン族の祭典・蝉のハレルヤ・コンサート』今夜7時より大倉山記念館前にて、本メールに付きご1名様に限ります。混雑が予想されますのでお早めにお出かけください。ゲロンパ。」…なんだこりゃ、スパムかと思った。蝉からメールなんて宮沢賢治みたい。ご招待ってことは関係者席かしら、アリーナだったらいいけどな…。夕方、わたしは東横線に乗って出かけていきました。大倉山は母の実家があるところです。線路沿いの坂を昇っていくと、桜の木の上でひそひそ声が聞こえました。「ホラあの子よ。蝉を助けた娘。」「なんて立派な娘でしょう!」わたしは誇らしいようで、恥ずかしかったです。本当は殺しかけたのに…わざとじゃないけど。説明したくても真っ黒い葉っぱが重なるだけで何も見えません。記念館前は人がいっぱいでした。野外の小さな丸いステージを囲むように、みんなスタンディングでコンサートの始まりを待っています。そこにはなんと、ジョン・レノン、高田渡、フレディ・マーキュリー、それにおおっ、ジュディ・シルもいました。客席でコンサートやってくれたらいいのに…。「よわこや、お前もきたのかい?」あれま、5年前亡くなったひいおばあちゃんもいます。「ひいばあちゃん、何してんの?」「決まってるだろーが。ライブ見にきただよ。」やがてステージにタキシードを着た蝉の司会者が現れました。第1部は市川蝉蔵が演じる歌舞伎『おんなころしあぶらぜみじごく』です。ステージに白塗りの蝉が出てきて、大見得を切りました。「いい男だねぇ、蝉蔵は…」ひいおばあちゃんは嬉しそう。わたしは話したいことがいっぱいあるはずなのに、あっけにとられたまま次々登場する蝉たちを眺めてました。第2部はオペラ『アブ・ラ・ボエーム』。愛するミンミンへの恋歌を、セミロッティという髭もじゃの蝉が、夜空いっぱいに響くテノールで歌いあげました。「ブラボー、ブラボー!」立ち上がって叫んだのは、いがぐり頭のフレディ・マーキュリーです。第3部は『蝉のブルース』。黒い蝉がボトルネックで、マーチンの古いギターを弾きながら歌いました。とても悲しい歌でした。「暗い土の中 出番を待っていた 暗い土の中 光を夢見てた ある日神様のお許しがでて ついに俺は外に出た だが梅雨はまだ明けてなかった それでも俺は歌ったんだ 寒さに凍えながら 声を限りに歌ったんだ 可愛いあの娘を見つけるために だけどあの娘は マンションの駐車場の下 あの娘は冷たいコンクリートの下」客席からすすり泣く声がしました。ジョン・レノンが拍手してるので、思い切って「歌わないんですか?」と聞いたら、彼は大きな鼻の上にメガネを置きなおしながら「今日は蝉たちに敬意を表す日なんだ。僕たちは黙って聴くのさ。」と、なぜか日本語で答えました。残念…。「みなさん、お待たせしました!」ドラムロールとともに照明が明るくなって、いよいよ最後の部です。「今日のトリをつとめますのは、ゲロンパこと、ご存知ジェイムズ・ア・ブラウンです!」拍手と声援に迎えられ、ジェイムズ・ブラウンそっくりのアブラゼミが出てきて、ゴスペル聖歌隊と一緒に踊りながら歌いました。客席はもうノリノリです。ところが歌の途中で、突然わたしにライトが当たったのです。とっても眩しかった。「みんな聞いてくれ。今日は私を救ってくれたよわこさんがきてくれた。彼女を讃えてみんなで『Hail Holy Yowako』を歌おう!Everybody let’s sing ゲロンパ!」な、な、なんと…あれは蝉のジェイムズ・ブラウンだったの?「聖なる女王 おおよわこ 慈しみの母よ おおよわこ 我らの苦しみの中に希望あり それこそがよわこ 幸いあれよわこに幸いあれ ハレルヤ」客席全員立ち上がっての大合唱でした。…やれやれ。わたしは死にそうなくらい恥ずかしかったです。あんまり恥ずかしくて腹が立ってきた。これってもしかしたら、殺しかけた仕返しかも。するとひいおばあちゃんが言いました。「おまえは優しい子だよ。あたしゃいつも見ているよ。自信持っていいんだよ。」…ひいおばあちゃん、ありがとう。でも、わたしはまだまだ自信を持てそうもありません。いつかは持てるのだろうか。「あたしゃ、いつも見ているよ。」ひいおばあちゃんは繰り返し言いました。フィナーレは『セミフル・ジョイフル』大晦日の第九と同じメロディです。宇宙まで届きそうなコーラスのあと、司会者が叫びました。「みなさん、ありがとう!2007年の夏よ、さようなら!これから生まれてくる子供たち、数年後地上に現れてくる若者たちに、どうか祝福を!ハレルヤ!」そのときどーんと花火が上がって、頭の上に光の玉がばらばら降ってきました。わたしはめまいがして、気がつくと草の上に坐っていました。回りはもう、ひいおばあちゃんもジョン・レノンも誰もいませんでした。人目を忍んできたカップルが、きょとんとしてこちらを見ています。あたりの草むらには、この世の仕事を終えた蝉たちがいっぱい、月の光を浴びながらきらきら転がっていました。「…よかった。みんな土に帰れるね。」帰ってパソコンを開けたら、招待メールはいつのまにか消えていました。窓の外はうろこ雲に満月、もうすっかり秋です。